口述対策

【口述対策備忘録】安全阻害行為等について

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Jです。

今回は「安全阻害行為」についての備忘録です。

機内で不法行為があった場合は乗務員は機内の安全・秩序の維持に努めなければなりません。

航空法で機長にはその為の権限が与えられています。

不法行為などといっても種類は様々で、暴力・器物損壊などの刑法に該当するもの、航空法の禁止命令対象の行為(8つ)、大声で騒ぐなどの迷惑行為などがあります。

航空法の第73条の3と第73条の4に規定があります。

安全阻害行為の定義(法第73条の3)

安全阻害行為等の禁止等って、、、「等」を付けすぎな気がしますが、条文は以下の通りです。

法第73条の3

航空機内にある者は、当該航空機の安全を害し、当該航空機内にあるその者以外の者若しくは財産に危害を及ぼし、当該航空機内の秩序を乱し、又は当該航空機内の規律に違反する行為(以下「安全阻害行為等」という。)をしてはならない。

(航空法から引用)

この条文は「安全阻害行為等」の定義を規定し、それをしてはならないという趣旨です。

安全阻害行為等とは「当該航空機の安全を害し、当該航空機内にあるその者以外の者若しくは財産に危害を及ぼし、当該航空機内の秩序を乱し、又は当該航空機内の規律に違反する行為」と定義されています。

それを抑止するための権限が法第73条の4を根拠として機長に与えられています。

安全阻害行為に対する機長の責務と権限

法第73条の4に安全阻害行為に対する機長の責務と権限が規定されています。

法第73条の4
機長は、航空機内にある者が、離陸のため当該航空機のすべての乗降口が閉ざされた時から着陸の後降機のためこれらの乗降口のうちいずれかが開かれる時までに、安全阻害行為等をし、又はしようとしていると信ずるに足りる相当な理由があるときは、当該航空機の安全の保持、当該航空機内にあるその者以外の者若しくは財産の保護又は当該航空機内の秩序若しくは規律の維持のために必要な限度で、その者に対し拘束その他安全阻害行為等を抑止するための措置(第5項の規定による命令を除く。)をとり、又はその者を降機させることができる。
2 機長は、前項の規定に基づき拘束している場合において、航空機を着陸させたときは、拘束されている者が拘束されたまま引き続きとう乗することに同意する場合及びその者を降機させないことについてやむを得ない事由がある場合を除き、その者を引き続き拘束したまま当該航空機を離陸させてはならない。
3 航空機内にある者は、機長の要請又は承認に基づき、機長が第一項の措置をとることに対し必要な援助を行うことができる。
4 機長は、航空機を着陸させる場合において、第一項の規定に基づき拘束している者があるとき、又は同項の規定に基づき降機させようとする者があるときは、できる限り着陸前に、拘束又は降機の理由を示してその旨を着陸地の最寄りの航空交通管制機関に連絡しなければならない。
5 機長は、航空機内にある者が、安全阻害行為等のうち、乗降口又は非常口の扉の開閉装置を正当な理由なく操作する行為、便所において喫煙する行為、航空機に乗り組んでその職務を行う者の職務の執行を妨げる行為その他の行為であつて、当該航空機の安全の保持、当該航空機内にあるその者以外の者若しくは財産の保護又は当該航空機内の秩序若しくは規律の維持のために特に禁止すべき行為として国土交通省令で定めるものをしたときは、その者に対し、国土交通省令で定めるところにより、当該行為を反復し、又は継続してはならない旨の命令をすることができる。
(航空法から引用)

第1項に記載がある通り、「離陸のため当該航空機のすべての乗降口が閉ざされた時から着陸の後降機のためこれらの乗降口のうちいずれかが開かれる時まで」という状況で機長は権限を行使できます。具体的には当該者を拘束したり、当該行為を抑止するための措置をとり、当該者を降機させることができるとあります。

飛行機の搭乗口が全て閉まって客席が密室になっているというのが大前提となります。

しかし、例外があります。

上記法第73条の4の第1項のカッコの中の「第5項の規定による命令を除く。」という例外はとても重要です。

第5項の規定には国土交通省令で定める禁止行為に関しての対応が書かれており、「国土交通省令で定めるもの」に対しては機内のドアが開いていても機長は命令書を交付することができます。

先にこの第5項の「国土交通省令で定めるもの」とは何かを具体的に見てみます。

航空法施行規則に決められており、全部で8個あります。

航空法施行規則 第164条の16

法第73条の4第五項の国土交通省令で定める安全阻害行為等は、次に掲げるものとする。

1 乗降口又は非常口のの開閉装置を正当な理由なく操作する行為
2 便所において喫煙する行為
3 航空機に乗り組んでその職務を行う者の職務の執行を妨げる行為であつて、当該航空機の安全の保持、当該航空機内にあるその者以外の者若しくは財産の保護又は当該航空機内の秩序若しくは規律の維持に支障を及ぼすおそれのあるもの
4 航空機の運航の安全に支障を及ぼすおそれがある携帯電話その他の電子機器であつて国土交通大臣が告示で定めるものを正当な理由なく作動させる行為
5 離着陸時その他機長が安全バンドの装着を指示した場合において、安全バンドを正当な理由なく装着しない行為
6 離着陸時において、座席の背当、テーブル、又はフットレストを正当な理由なく所定の位置に戻さない行為
7 手荷物を通路その他非常時における脱出の妨げとなるおそれがある場所に正当な理由なく置く行為
8 非常用の装置又は器具であつて国土交通大臣が告示で定めるものを正当な理由なく操作し、若しくは移動させ、又はその機能を損なう行為
(航空法施行規則から引用)

上記の8個が明記されています。

「第5項の規定による命令」とは、この8個の項目に対しての禁止命令のことです。

この8項目に対しては飛行機の搭乗口が全て閉まっていない状態(搭乗中など)でも、機長は当該者に対して禁止命令を出すことができます。

この8項目以外の行為に対しては、搭乗口が開いている場合は機長には法律上安全阻害行為を抑止する責任はありません。

禁止命令は誰がどうやって出すのか

機長が禁止命令を出しますが、機長が当該者のところに直接行って出すことはありません。

禁止命令は口頭ではなく書面で交付することになっています。機長の指示で客室乗務員が代理で交付する流れです。

航空法施行規則 第164条の17

機長は、法第73条の4第5項の規定により命令をするときは、同項に規定する安全阻害行為等をした者に対し、次の事項を記載した命令書を交付しなければならない。

1 当該行為者が行つた安全阻害行為等の内容
2 当該行為を反復し、又は継続してはならない旨
(航空法施行規則から引用)

命令書は日本語だけでなく英語、その他様々な言語のものがあります。

命令書をもらうということは最終通告です。

それでも禁止命令を無視して違反を繰り返したら罰則の対象となります。

禁止命令に違反した時の罰則

禁止命令を無視して違反を続けた場合は罰則の対象になります。

罰則は航空法第150条に規定されています。

法第150条

次の各号のいずれかに該当するときは、その違反行為をした者は、50万円以下の罰金に処する。

(中略)

5の4 第73条の4第5項の規定による命令に違反したとき。

(中略)

(航空法から抜粋)

禁止命令を受けてさらにその命令に違反した場合の罰則は50万円以下の罰金です。

禁止命令対象行為以外の安全阻害行為(犯罪)

禁止命令対象行為以外の安全阻害行為に対しては航空法違反ではあるものの命令書は使えません。

禁止命令対象行為8個以外の安全阻害行為に対しては航空法の罰則も適用されません。

暴力、器物損壊、盗撮などに対しては航空法に罰則はありませんが、これらは既存の法律(刑法・条例など)で対応可能です。

例えば、他人に暴力行為をした場合は暴行罪が成立します。罰則としては「2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料」が刑法第208条に規定されています。

機内で犯罪が起こった場合は拘束などあらゆる手段を使って抑止して、到着地に警察を要請して粛々と対応します。

禁止命令対象行為でも犯罪でもない場合

禁止命令対象行為でもなく犯罪とも言えない安全阻害行為があります。

例えば、大声で騒いでひとりで暴れるという行為です。行為自体は禁止命令対象行為でもなければ犯罪でもありません。

しかし、大声を出して暴れるのは迷惑行為であることには変わりなく、機長は航空機内の秩序若しくは規律の維持に責任があるのでそれを抑止しなければなりません。

搭乗中で搭乗口がひとつでも開いていれば、法律的に機長に権限はないため特に対応はできません。

出発のためにドアが閉まって客席が密室になった瞬間に、機長の権限で降機させることができるので再び降機させるためにドアを開けることになると思います。

飛行中であればCAが口頭で注意したり、ひどい場合は最寄りの適する空港に着陸して降機させるということが考えられます。

刑事罰はありませんが、民事の賠償責任は生じます。

乗務員は警察要請も含めて臨機応変な対応が必要です。

一番対応が難しいのがこれ

あくまで個人的な意見ですが、一番判断と対応が難しいのが「暴言」です。

もちろん程度によるのですが、暴言って結構日常生活でもあると思います。これらの暴言はいわゆる「カスタマーハラスメント(カスハラ)」と呼ばれることもあります。

一口に暴言と言っても差別的な発言、侮辱、怒鳴る、理不尽な説教など様々です。そして、その言葉を言われてその人がどう受け取ったかも人それぞれです。

機長は操縦室にいて客室にはいないので客室乗務員から話を聞くわけですが、「立ち直れないくらいひどいことを言われたのでこれ以上業務出来ない」「業務に支障が出るくらいショックを受けた」と言われたらどうしますか?

あくまでそれは主観でしかないのでそれを客観的に判断するのはなかなか難しいと思います。

一度だけの暴言では安全阻害行為というのは厳しいと思っています。注意しても継続的に暴言を吐き続ける場合は安全阻害行為に該当すると思います。継続性がポイントです。

「ショックでもう業務出来ない」と言われれば、その場では「残り休んどいていいよ」としか言いようがありません。

暴言はもちろんダメだと思いますが、臨機応変な対応が求められます。

また「カスハラ」に対しては機長、客室乗務員だけでなく会社組織全体で毅然と対応するのが大事だと思います。

国際線ではどうなるのか

国際線で日本の法律は通用できるのでしょうか。

飛行機には「国籍」があり、日本の航空会社の飛行機の国籍は日本です。

国籍が日本である飛行機では、この法律を適用することができます。

まとめ

安全阻害行為は大きく分けて3つあります。

「①航空法の禁止命令対象行為」と「②犯罪行為」と「③その他迷惑行為」です。

禁止命令対象行為8個
→機長が命令書を交付して対応。命令書による禁止命令に違反した場合は航空法の罰則あり。飛行機のドアが開いていても行使可能。

犯罪行為
→警察などに引き渡し、既存の法律で対応可能。

継続的な迷惑行為
→警察要請含めて臨機応変に対応。刑事罰がなくとも民事で賠償責任を問える可能性あり。会社として今後の搭乗拒否などの対応も。


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