ここだけのパイロットの話

日本のパイロットのアルコールチェックの現状

投稿日:09/01/2023 更新日:


どうも職業アルコールチェッキーです。

フライトよりも多いアルコールチェックの現状を共有します。

たくさんの人に知っていただきたいです。

実施要領は通達に書いてある

航空機乗組員等のアルコール検査実施要領

以上のリンクから通達の実物を見ることができますが、以下で要点を詳しく解説していきます。

3種類のアルコールチェックが定められている

まずはアルコールチェックの種類を紹介します。

3種類あります。検査は国土交通省航空局指導の元、厳しい基準で運用しています。

表示するアルコール濃度の数値の単位は 0.01mg/ℓ 以下であること。
(通達「航空機乗組員等のアルコール検査実施要領」から引用)

検査結果は0.01mg/l以下でなければなりません。

前までは乗務前チェックだけでしたが、どこかのCAさんが乗務中にギャレーのお酒を飲んだということでCAだけでなくパイロットにも便間・乗務後検査が導入されました

パイロットが乗務中に飲んだという事例は聞いたことがありません。

①乗務前のアルコールチェック

乗務前にやるアルコールチェックです。飲酒運転(操縦)はとても危険です。

もし、ここでアルコールが検知されてしまうと言い訳は一切通用せず即解雇になります。

昔は反応してもスタンバイの人に交代するだけで済んでいたそうです。

多くの人の命を預かるプロとして酒気帯び状態で出社することは到底許されません。

ただし、各航空会社を監督・指導する立場の国土交通省航空局所属のパイロットであった場合はアルコールが検出されても解雇になりません。仲間には優しいので厳重注意で済みます。

②便間でのアルコールチェック

パイロットは国内線であれば1日複数便に乗務します。

飛行機が目的地に到着して、次の目的地に出発するまでの時間を「便間」といいます。

その便間にアルコールチェックがあります。このチェックは2時間を超える便間があるときに実施します。

しかし、本当に疑っているのであれば2時間切ってもやるべきではないですかね。

また、なんと便間には2回アルコールチェックします!

1回目は乗務後のチェックで2回目は乗務前のチェックということです。

ちなみに間髪入れず2回連続で検査をやっています。その時点で2回目は全く意味無しです。

ちなみにこの便間検査で引っかかった人は今までいないのでどうぞご安心ください。

③乗務後のアルコールチェック

コックピットは密室です。パイロット2人しかいません。そしてコンビニに寄ってビールを買うこともできません。

しかし、ギャレーにはお酒があるので乗務中にそれを盗んで飲酒している可能性があるので乗務後のチェックは欠かせません。

乗務後は何をするよりもまず先にアルコールチェックを行います。

忘れて帰ろうものなら有罪が確定です。乗務中に飲酒したことを隠ぺいするために忘れたフリをして帰宅したと言われても文句は言えません。

忘れて帰ってしまったらもう1度出社して検査を行います。1度帰宅してしまうと時間がかなり経ってしまうので、時間稼ぎをしてその間にお酒を体から抜こうとしていたと疑われても文句は言えません。

忘れて退社して、さらに家でお酒を飲んでしまうともうアウトです。そのお酒が乗務中に飲んだのか、帰宅後に家で飲んだのかをはっきりと証明することは極めて難しいです。

ちなみにこの検査で引っかかった人はいないのでどうぞご安心ください。

この第三者の立ち合いが不要になる場合が通達に定められています。

次に掲げる条件のいずれかに該当する場合は、飛行後のアルコール検査において立会いは不要とすることができる。
・操縦室と客室にドアがない機体を使用する場合
・飛行前に会社が航空機乗組員又は客室乗務員の荷物検査を行いアルコールを所有していないことを確認し、かつ、機内でアルコールを販売しておらず運航中にアルコールを入手できないなど航空機乗組員又は客室乗務員が飲酒する可能性が低いと認められる場合
(通達「航空機乗組員等のアルコール検査実施要領」から引用)

立会いが不要というだけでチェックはする必要があるようです。

乗務後アルコールチェックは全く意味がない理由

乗務後アルコールチェックの目的は全く意味がありません。

乗務中にビール1本飲んだとしても2時間もすれば分解されて反応は出ないからです。

つまり、何が言いたいかというと、乗務中に飲んでいる人がいることを疑って乗務後のアルコールチェックをやったとしてもそれは乗務中飲んでない証拠にはならないということです。

よってやることに全く意味はありません。やっているという役所の点数稼ぎに付き合っているだけです。

やるなら乗務中2時間ごとにやって記録しておくとかしなければいけません。

チェックには第三者の立ち合いが必須

パイロットは隙あらば飲酒する生き物だと思われています。

アルコールチェックはパイロット同士で相互にチェックすることは認められていません。

不正(なりすまし、すり抜け等)を防止するため、原則アルコール検査に関し必要な教育を受け航空運送事業者又は認定事業場が適切と認めた第三者※3 が立会い※4、検査が適切に行われていることを確認すること。
(通達「航空機乗組員等のアルコール検査実施要領」から引用)

必ずパイロットでない第三者のスタッフに0.01mg/lであったことを確認してもらわなくてはなりません。

なぜなら、乗務中2人で飲酒してお互いに隠ぺいするために口裏を合わせて虚偽の報告をするかもしれないからです。

便間のアルコールチェックで少々手間取って結果的に次の便が遅れたとしてもお構いなしです。

便間のチェックでアルコールが検出されることは絶対無いんですけどね。

意味が無いのは現場はみんな分かっている

国際線でもアルコールチェックのルールは同じです。

基本的には国際線は1日1便で便間は無いので乗務前と乗務後のアルコールチェックの2回を行います。

乗務後のアルコールチェックは現地のスタッフの監視の元行います。フライト時間が長いと飲酒チャンスが多いですからね。

ここまで厳しいアルコールチェックを行っているのは日本だけだそうです。さすが日本は安全意識が高いですね。

現地のスタッフは僕らがアルコールチェックをしているときになぜか苦笑いに近い表情をいつもしています。意味がないことを分かっているからです。

最近では彼らの冷ややかな視線が気持ちよくなってきました。

なぜ海外のように逮捕されないのか

海外では逮捕されます。

しかし、日本では飲酒検査に引っかかって処分を受けたというニュースはありますが、逮捕されたという事例は聞いたことがありません。

なぜでしょうか。

それは乗務前のアルコール検査で引っかかることは違法ではないからです。

例えば車を運転する前に検査をして引っかかったら乗らなければいいだけです。飛行機も同じで乗務前の検査で引っかかっただけであれば飲酒運転をしたわけではないので法的には問題ありません。

しかし、自家用車だとそれで済みますが、仕事で便を遅らせてしまうのは社会人として失格であり会社の社会的な信用を損なわせる行為です。したがって、会社が社内規定に則って処分するという建付けになっています。

日本ではアルコールチェックを実施するのも会社であり、警察ではありません。

海外はどうなっているのか

知り合いに聞いた話ですが、海外では乗務前の検査は無いところの方が多いです。

理由は乗務前で検査で引っかかったとしても違法ではなく、なんとでも言い逃れができてしまうからです。日本と文化の違いもあります。

なのでコックピットに行って搭乗許可を出した直後に旅客搭乗中に抜き打ちで検査を行うそうです。

機長が搭乗許可を出しているということは、その便を運航するという意思の表れなのでそこで検査に引っかかったら即逮捕されて解雇になるそうです。

搭乗を許可したということは、飲酒の影響がある状態で運航をしたと見なされ、厳罰になるそうです。

また検知器の誤反応という言い訳をさせないためと、逆に冤罪はあってはならないことから第三者立ち合いで血液検査まで実施するそうです。

日本ではそこまでしません。「機械の誤検知」でまかり通ってしまいます。

最後に

最後まで読んでくださりありがとうございます。

乗務後のアルコールチェックって自動車・トラックの運転手等では当たり前だそうですね。

しかし、考えてみてください。飛行機は地上の交通機関とは違って途中コンビニとかに寄ってお酒を買うことはできません。

なおかつ必ず2人以上で仕事しているので他人の目があります。CAさんのようにギャレーで仕事をしないのでお酒をギャレーから盗み出すことも不可能です。(そもそも操縦しているので無理です)

乗務後アルコールチェックは、例えるなら「お客様が保安検査をすり抜けて危険物を持ち込んだ事例が1件あったので、これからはお客様が飛行機に乗る前だけでなく、目的地に着いた後にももう一度保安検査を行います」って言ってるのと同じような感じです。

この記事をひとりでも多くの方に知ってもらうことがより良い制度構築のきっかけになりますので、ぜひこの記事を拡散していただきたく思います。

宜しくお願いします。


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