どうも職業アルコールチェッキーです。
本業はパイロットなのですが、日々の業務を振り返ると「フライトよりもアルコールチェックの回数の方が多いのでは?」と感じるほど、厳密かつ高頻度な検査が義務付けられています。
今回は、一般にはあまり知られていない「日本の航空業界におけるアルコールチェックの実態」と、「今後の変化の兆し」について現場のリアルな視点から詳しくお伝えします。
目次
実施の根拠は国土交通省の「通達」にある
日本のパイロットに対するアルコール検査は、気まぐれで行われているわけではありません。国土交通省航空局が定めた基準に基づき、厳格に運用されています。
具体的には、通達「航空機乗組員等のアルコール検査実施要領」によって詳細なルールが規定されています。
この運用において最も重要なポイントは、検出されるアルコール濃度の基準値が「0.01mg/ℓ 以下」でなければならないという点です。つまり、事実上の「完全ゼロ」が求められます。
現在パイロットに課されている3種類のチェック
まずはアルコールチェックの種類を紹介します。
3種類あります。検査は国土交通省航空局指導の元、厳しい基準で運用しています。
前までは乗務前チェックだけでしたが、どこかのCAさんが乗務中にギャレーのお酒を飲んだということでCAだけでなくパイロットにも便間・乗務後検査が導入されました。
パイロットが乗務中に飲んだという事例は聞いたことがありません。
①乗務前のアルコールチェック
乗務前にやるアルコールチェックです。飲酒運転(操縦)はとても危険です。
もし、ここでアルコールが検知されてしまうと言い訳は一切通用せず即解雇になります。
昔は反応してもスタンバイの人に交代するだけで済んでいたそうです。
多くの人の命を預かるプロとして酒気帯び状態で出社することは到底許されません。
ただし、各航空会社を監督・指導する立場の国土交通省航空局所属のパイロットであった場合はアルコールが検出されても解雇になりません。仲間には優しいので厳重注意で済みます。
②便間でのアルコールチェック
パイロットは国内線であれば1日複数便に乗務します。
飛行機が目的地に到着して、次の目的地に出発するまでの時間を「便間」といいます。
その便間にアルコールチェックがあります。このチェックは2時間を超える便間があるときに実施します。
しかし、本当に疑っているのであれば2時間切ってもやるべきではないですかね。
また、なんと便間には2回アルコールチェックします!
1回目は乗務後のチェックで2回目は乗務前のチェックということです。
ちなみに間髪入れず2回連続で検査をやっています。その時点で2回目は全く意味無しです。
ちなみにこの便間検査で引っかかった人は今までいないのでどうぞご安心ください。
③乗務後のアルコールチェック
コックピットは密室です。パイロット2人しかいません。そしてコンビニに寄ってビールを買うこともできません。
しかし、ギャレーにはお酒があるので乗務中にそれを盗んで飲酒している可能性があるので乗務後のチェックは欠かせません。
乗務後は何をするよりもまず先にアルコールチェックを行います。
忘れて帰ろうものなら有罪が確定です。乗務中に飲酒したことを隠ぺいするために忘れたフリをして帰宅したと言われても文句は言えません。
忘れて帰ってしまったらもう1度出社して検査を行います。1度帰宅してしまうと時間がかなり経ってしまうので、時間稼ぎをしてその間にお酒を体から抜こうとしていたと疑われても文句は言えません。
忘れて退社して、さらに家でお酒を飲んでしまうともうアウトです。そのお酒が乗務中に飲んだのか、帰宅後に家で飲んだのかをはっきりと証明することは極めて難しいです。
ちなみにこの検査で引っかかった人はいないのでどうぞご安心ください。
現場が感じる「制度の形骸化」と構造的な疑問
安全運航を最優先にする姿勢自体は極めて重要ですが、現場の運用においては形式化していると感じられるポイントが存在します。
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乗務後検査の構造的限界
仮にフライト中に少量の飲酒があったとしても、数時間の飛行を経て目的地に着く頃には体内で分解されてしまうため、数値として検出されません。そのため、「乗務後の数値がゼロ=飛行中に飲酒していなかった」という証明になりません。 -
便間検査での「連続チェック」
到着後の「乗務後検査」を行った直後に、次の便の「乗務前検査」を実施するケースがあり、短時間に実質2回連続で検査を行う形となっています。検査をすること自体が目的化しています。
不正を防ぐための「第三者立ち合い」
パイロットは隙あらば飲酒する生き物だと思われています。
アルコールチェックはパイロット同士で相互にチェックすることは認められていません。
なぜなら、乗務中2人で飲酒してお互いに隠ぺいするために口裏を合わせて虚偽の報告をするかもしれないからです。
便間のアルコールチェックで少々手間取って結果的に次の便が遅れたとしてもお構いなしです。
便間のチェックでアルコールが検出されることは絶対無いんですけどね。
なぜ海外のように逮捕されないのか
海外では逮捕されます。
しかし、日本では飲酒検査に引っかかって処分を受けたというニュースはありますが、逮捕されたという事例は聞いたことがありません。
なぜでしょうか。
それは乗務前のアルコール検査で引っかかることは違法ではないからです。
例えば車を運転する前に検査をして引っかかったら乗らなければいいだけです。飛行機も同じで乗務前の検査で引っかかっただけであれば飲酒運転をしたわけではないので法的には問題ありません。
しかし、自家用車だとそれで済みますが、仕事で便を遅らせてしまうのは社会人として失格であり会社の社会的な信用を損なわせる行為です。したがって、会社が社内規定に則って処分するという建付けになっています。
日本ではアルコールチェックを実施するのも会社であり、警察ではありません。
海外はどうなっているのか
知り合いに聞いた話ですが、海外では乗務前の検査は無いところの方が多いです。
理由は乗務前で検査で引っかかったとしても違法ではなく、なんとでも言い逃れができてしまうからです。日本と文化の違いもあります。
なのでコックピットに行って搭乗許可を出した直後に旅客搭乗中に抜き打ちで検査を行うそうです。
機長が搭乗許可を出しているということは、その便を運航するという意思の表れなのでそこで検査に引っかかったら即逮捕されて解雇になるそうです。
搭乗を許可したということは、飲酒の影響がある状態で運航をしたと見なされ、厳罰になるそうです。
また検知器の誤反応という言い訳をさせないためと、逆に冤罪はあってはならないことから第三者立ち合いで血液検査まで実施するそうです。
日本ではそこまでしません。「機械の誤検知」でまかり通ってしまいます。
今後は「乗務後・便間チェック」がなくなる方向へ
こうした現場の実態や海外の運用状況、さらに実効性と作業負担のバランスを踏まえ、今後は「乗務後」や「便間」のアルコールチェックを廃止・縮小していく方向で見直しが進められています。
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乗務前チェックの徹底への一元化
運航に最も直結する「乗務前」の確認体制をより高度かつ確実に整備することで、実効性の薄い便間や乗務後の検査ステップを削減する流れが生まれています。 -
テクノロジーの活用と運用の効率化
検知器の精度向上やデータ管理の高度化により、無意味な重複検査を減らし、パイロット本来の安全運航業務に集中できる環境づくりを目指した見直しが期待されています。
まとめ:真に効果的な安全運航体制を目指して
乗務後チェックを例えるなら、「お客様が保安検査をすり抜けて危険物を持ち込んだ事例があったため、目的地に着いた後にも全員にもう一度保安検査を行う」と言っているようなものでした。
形だけの検査から、「真に事故を防ぎ、現場が納得して運用できる実効性ある制度」へと進歩していくことは、航空業界全体にとっても大きなプラスとなります。
この記事を通じて、航空業界の安全を裏で支える現場の実情とこれからの変化について知っていただければ幸いです。