今回ですけども、飛行機のエンジンについての話です。
飛行機は2つあるエンジンが1つ故障してももう1つのエンジンで安全に飛行をし、着陸することができます。
ひとつのエンジンになることをOne Engine状態と言いますが、One Engineの力学ついて書いてみました。
ここでは双発機を前提にお話をします。
目次
One Engineの力学
飛行機のエンジンは各翼の下に1つずつぶら下がっています。
そのうちどちらかのエンジンが止まると左右で推力のバランスが取れなくなります。
例えば左のエンジンが止まったとします。
その場合、どうなるでしょうか?
生きている右のエンジンの推力のみで飛行機は進みます。
しかし、右エンジンは飛行機の中心から右に離れたところについているので、飛行機の重心に対して左回りの力のモーメントが発生して、飛行機は左旋回をしてしまい、まっすぐ飛ぶことはできなくなります。
上図の左旋回を打ち消すことができれば、飛行機はまっすぐ飛ぶことができます。
そうするには、逆の右回りの力を何らかの方法で発生させれば良いということになります。
ここで使用するのが「垂直尾翼」です。
この飛行機のお尻のところに垂直に立っている部分です。
この垂直尾翼の舵面の角度を変えます。それにより、垂直尾翼に揚力が発生し、結果として重心に対して右回りの力が発生します。
この図のように、エンジンの故障によって発生してしまう左回りの力と、垂直尾翼で発生させた右回りの力を釣り合わせることで飛行機はまっすぐ飛ぶことができるのです。
垂直尾翼の舵面は足で動かす
さて、垂直尾翼の舵面を変えることでエンジンの非対称によるモーメントを打ち消すという理屈は分かりましたが、具体的にどうやるのでしょうか?
垂直尾翼の舵面をラダー(方向舵)と言いますが、このラダーはパイロットの席の下についているラダーペダルと言うものを足で踏むことで動かすことができます。
車のアクセルとブレーキのような感じで、左ラダーペダル、右ラダーペダルの2つがついています。左を踏めば飛行機は左を向き、右を踏めば右を向きます。
左のエンジンが止まった場合は右のラダーペダルを踏むことで回転を止めることができます。
逆に、右エンジンが止まったら左ラダーペダルを踏みます。
この踏むべき方のペダルを瞬時に判断しなければなりません。
もし踏むべきラダーと逆の間違った方のラダーを踏んでしまうと、回転を止めるどころかさらに回転を強めてしまうので最悪の場合飛行機は墜落してしまいます。
いつエンジンが止まるのが最悪か
さて、力学的にいつエンジンが止まるのが1番危険かと言うと離陸する時です。
離陸時のエンジン故障が最も危険な理由は以下の3つです。
①エンジン推力が最大
②低速度
③低高度
エンジン推力が最大ということは、片方のエンジンが止まった時の左右の推力の差が最も大きくなるということです。それを打ち消すために必要なラダーの力も大きくなります。
また、それが低速であれば低速であるほど舵の効きは悪くなるので、ラダーペダルをかなり踏み込む操作が必要になります。
そして、それが低高度で起こるということなので、高度ロスは許されず、飛行機の姿勢を立て直すチャンスは一瞬しかありません。
パイロットは離陸時にエンジンが故障する訓練をかなりの量積んでおり、試験時にも必ずやらなければいけない項目となっています。(ちなみにその科目は”Engine failure after V1(ブイワン)”と言います)
One Engine Landingは操作が複雑
着陸についてですが、着陸時はエンジンをかなり絞っているため非対称の推力も離陸時と比べて小さいです。
しかし、一定出力の離陸時と違い、スピードを所定のスピードにするために推力をこまめに出したり引いたりすると、その動きに応じたモーメントが発生するので難しいです。
推力を出すと飛行機は故障したエンジン(Dead Engine)側に向いてしまい、絞ると生きているエンジン(Live Engine)側に向いてしまします。
従って、推力・操縦かんを調整する手と、ラダーペダルを踏む足のコーディネーションが必要になります。
推力が変わらなければヨーイングは発生しないので、できるだけ推力をいじらないような操縦をするのがコツです。
操作のコツ公開
さて、最後にV1後にENG Failした場合の操作のコツを書きたいと思います。
僕は主に4つのチェックポイントを持っています。
①Rudderを踏み過ぎない
理想はRudderを使ってTrackをRWYと一致させることですが、それは極めて難しいと思っています。
RudderでYawingを止めますが、踏み過ぎてしまうとエルロンを風下の方に取らなくてはならなくなるため非常に難しくなります。
Rudderが足りなすぎるのもいけませんが、どちらかと言うと少し足りないほうが操作は簡単になります。
その足りないRudder分エルロンをLive ENG側にとって飛行するのが最も簡単です。
②Rotationは通常よりもゆっくり
片方のエンジンの推力を失っているので通常のようにRotationするとSpeedがつかず失速の危険があります。
通常よりもゆっくりとRotationするように心がけています。
③上昇姿勢が落ち着くまでRudderをバタバタ動かさない
①でも説明しましたが、Rudderを一回で適量を踏むのは難しいです。
踏んだ後にRudderが適量ではないことが分かってもRotationが終わって上昇姿勢が落ち着くまではRudderを動かさないように注意が必要です。
Rudderの量でエルロンの量も変わってきます。それがRotationという繊細な操作の時に変わるのは好ましくありません。
Rudderとエルロンのコーディネーションが取れなくなって非常に危険です。
④Bank入れないようにエルロン操作
これは通常時と同じですが、飛行機が傾かないようにRotationします。
簡単そうに見えて横風があると難しいです。
以上これらのポイントを念頭に置いています。
また、これらはあくまで個人の感想なので参考程度で考えてください。