ここだけのパイロットの話

着陸するときに滑走路のどこを狙うか

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Jです。

パイロットは職人的な要素が強い職業だと思います。特に着陸は皆すごく拘りがあります。

着陸もオートパイロットで安全にできてしまう現代においてもほぼ全員が手動で着陸します。

今回は「滑走路のどこを狙ってアプローチしていくか」について書いてみたいと思います。

一般論

着陸の方法は個人個人で研究していて人によって違いますが、一般論というか大前提をまずは紹介します。

例として羽田空港のRWY34Rの図で説明していきます。

滑走路には目標点標識(下図参照)というものがあり、そこのマーキング上にメインギアを接地するのが良いとされています。

滑走路の図

しかし、実際には風が吹いていたり、様々な外的要因があります。

接地点は手前過ぎると危険ですし、奥になりすぎると残りの滑走路長が気になります。

そうしたことなどを考慮して目標点標識の前後の範囲内(下の赤い範囲参照)でメインギアが接地できるようにコントロールします。

接地の範囲

アプローチするときに厳密に滑走路のどこの点を狙うかは実は奥が深く、アプローチや昼夜によって違うのです。

※絶対にこの方法でなければならないという決まりはありません。

そもそも「狙う」とは何??

パイロットは飛行機を着陸させるために、通常は3度のパスで滑走路に向かっていくわけですが、漠然と降りていくわけではありません。

パイロットの目から滑走路に向かう3度のパスが、滑走路に当たる場所が狙っているポイントです。

その滑走路上のポイントを「aiming point(エーミングポイント)」と言います。

pointは日本語で「点」という意味です。その意味の通り「点」に向かって降ろしていきます。

もし最後にフレア(引き起こし操作)をしなければそこの点に自分がぶつかってしまうような点です。

①Visualの場合

Visualとは外を目で見て飛ぶ基本的なアプローチ方法です。

計器に頼らず滑走路を目で見て進入するため、狙う場所も当然自分で決めてアプローチします。

通常は目標点標識の手前を狙います。

この点は滑走路末端から400m(1,312ft)の点です。

手前を狙う理由は、フレア(着陸直前の機体の引き起こし操作)を行うことで接地点はaiming pointよりも少し奥になるからです。

RWY34RVisual aiming

非精密進入でも、計器によるパスのガイダンスは無いため狙う場所は同じです。

②ILSの場合

ILSは天気が悪く滑走路が見えない時に着陸するための計器進入方式です。(晴れでも使います)

そして、世界の大空港ではほとんどがILSで1番簡単なアプローチと言われています。

Glide slope(G/S)の電波がGlide slopeアンテナ(下の写真)から3度のパスで出ており、飛行機はこの電波をたどって降りていきます。

Glide slopeアンテナ

滑走路横のGlide slopeアンテナ

 

Glide slope(G/S)をしっかりFollowした場合、下の図の赤丸(滑走路末端から316mの点)に向かって飛行機は降りていきます。

RWY34R GS

基本的に最後はDA(対地60m)で滑走路等を視認しなければ着陸はできません。ここで見えなければGo Around(やり直し)します。

対地60m(200ft)で滑走路が見えて、着陸を決心した場合、そのあとの操作が難しいです。

実はGlide slopeの電波はThreshold(滑走路末端)までしか使えません。

つまり、滑走路の上に入ったら最後は外を見て自分でaiming pointを持ち、それに向かって操作をしていく必要があります。

どこに向かっていけばよいでしょうか?

Glide slopeが作ってくれたパスを変えずに行くのが良いのですが、いずれにせよ滑走路のマーキングを目で見てどこかを狙わなければなりません。

実はこのGlide slopeのアンテナは空港・滑走路ごとに接地場所が違うため、いつも同じ場所を狙えばよいわけではありません。滑走路ごとに狙う場所を変えるのも面倒です。

滑走路が見えた後、特にThreshold(滑走路末端)以降はGlide slopeは使えないのでそこは自分なりにaimingを持つ必要があります。

aiming pointはアンテナよりも先になっている

RWY34R GS

そこでもう一つ考えることは、Glide slopeにより飛行機が向かっている点(上図の赤丸)はパイロットの目線が向かっている点と微妙にズレているということです。

飛行機のアンテナの位置とパイロットの目線は場所が違うからです。

では、どのくらいズレがあるのでしょうか?

ILSでaimingはどこか

それは飛行機の機種によって違います。

小型機であれば差は少ないですが、大型機であればアンテナとパイロットの目線の高度差は3~4m違います。

例えば4m目線が高い場合、aiming pointはG/Sアンテナよりも76m(248ft)先になります。

羽田の場合、アンテナは316m(1,037ft)なので、ILSのaiming pointは392m(1,285ft)となります。

ILS時のpilot eye

Visualのaiming pointの1,312ftよりも若干手前になってしまうということですね。

その差8m(27ft)です。

操縦していて僕には8mの差は分からないし、誤差だと思うので羽田のRWY34RではILS実施時でもVisualと同じaimingでよいという結論になっています。

③夜の着陸の場合

夜の滑走路はマーキングは見えません。滑走路末端から400ft地点の目標点標識も見えません。

その場合はどこを狙えばよいでしょうか。

多くの人はPAPI横を狙っています。PAPIは滑走路に必ず付いていて光っているからです。

PAPIの表示 意味
〇〇〇〇 高い高い高い
〇〇〇 やや高い
〇〇●● 適正なパス
●●● やや低い
●●●● 低すぎやろ

PAPIはほぼ全ての滑走路脇についていてパイロットに進入パスの高低を教えてくれる指示器です。

PAPIは夜でも光って見えやすいのでaimingにすることができます。

しかしながら、空港や滑走路によってPAPIがついている位置は若干異なっているので、PAPI横が滑走路末端からどれくらいのところについているのかを把握しておく必要はあります。

パイロットは着陸の性能を前もって計算していますが、その必要滑走路長はPAPI横を狙う計算になっていない可能性があるからです。

PAPIがいつものaiming(400m地点)よりも奥にある時にはいつもよりも着陸長が伸びてしまうことを考えておくべきです。

さて、羽田のRWY34RではPAPIは滑走路末端から416m(1,354ft)の地点に設置されています。G/Sアンテナの100m先ですね。

PAPI

夜間ILSでアプローチしてきて対地200ft付近でILSのaimingの1,285ftからPAPIの1,354ftのaimingに切り替えるときにはパスが浅くなるような操作になると予測できます。

長さについてはいつも狙う場所が1,312ftなのでそれよりも42ft先です。42ftは誤差程度なので問題ありません。

42ftを気にする暇があったら着陸が伸びないようにしっかりやることに集中したほうがいいです。

自分がどこを狙っているかは明確にすべき

上記で紹介したaiming pointの違いは細かいです。羽田のRWY34Rの滑走路の長さから見たら①~③はほとんど同じ地点でした。

実際に違いを考えなくてもなんとなくで安全に着陸できてしまいます。

しかし、その細かいことを考えることで根拠を持った操縦ができるのです。

お客様にとってはどこを狙おうが知ったこっちゃないのでパイロットの自己満足かもしれませんが、そういうことを考えることがプロの操縦だと僕は思います。

やってみてこれは誤差の範囲だなと感じたらやめればよいと思います。

「やってみたけど無駄だったな」という経験が大事です。


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