ここだけのパイロットの話

飛行機エンジン故障時の航空力学!パイロットが分かりやすく解説

投稿日:14/07/2020 更新日:

「もし飛行中にエンジンが1つ止まったらどうなるんだろう…?」と不安に思ったことはありませんか?

結論から言うと、飛行機は2つあるエンジンのうち1つが故障しても、もう1つのエンジンだけで安全に飛行し、無事に着陸することができます。

今回は、片方のエンジンだけで飛ぶ「One Engine(ワン・エンジン)状態」で飛行機にどんな力が働き、パイロットがどのように操縦しているのか、航空力学の観点からどこよりも分かりやすく解説します!(※双発機を前提にお話しします)

One Engineで何が起きる?

一般的な旅客機(双発機)のエンジンは、左右の翼の下に1つずつ設置されています。

通常は左右均等な力(推力)で前進していますが、どちらかのエンジンが止まると左右の推力のバランスが崩れてしまいます。

例えば左のエンジンが止まったとします。

その場合、どうなるでしょうか?

生きている右のエンジンの推力のみで飛行機は進みます。

しかし、右エンジンは飛行機の中心から右に離れたところについているので、飛行機の重心に対して左回りの力のモーメントが発生して、何もしなければ飛行機は左旋回をしてしまい、まっすぐ飛ぶことはできなくなります。

 

左エンジンが止まった時の重心周りのモーメントは左回り。このまま何もしなければ飛行機は左に旋回してまっすぐ飛べない。

上図の左旋回を打ち消すことができれば、飛行機はまっすぐ飛ぶことができます。

そうするには、逆の右回りの力を何らかの方法で発生させれば良いということになります。

ここで使用するのが「垂直尾翼」です。

垂直尾翼の図

この飛行機のお尻のところに垂直に立っている部分です。

エンジンの故障を認識したパイロットがこの垂直尾翼の舵面を操作して角度を変えます。

それにより、垂直尾翼に揚力が発生し、結果として重心に対して右回りの力が発生します。

左エンジン停止時のモーメント図

  • エンジンの故障による力: 左回りのモーメント

  • 垂直尾翼で生み出す力: 右回りのモーメント

この図のように、エンジンの故障によって発生してしまう左回りの力と、垂直尾翼で発生させた右回りの力を釣り合わせることで飛行機はまっすぐ飛ぶことができるのです。

垂直尾翼の舵面は足でコントロールする

さて、垂直尾翼の舵面を変えることでエンジンの非対称によるモーメントを打ち消すという理屈は分かりましたが、具体的にどうやるのでしょうか?

垂直尾翼の舵面をラダー(方向舵)と言いますが、このラダーはパイロットの席の下についているラダーペダルと言うものを足で踏むことで動かすことができます。

車のアクセルとブレーキのような感じで、左ラダーペダル、右ラダーペダルの2つがついています。左を踏めば飛行機は左を向き、右を踏めば右を向きます。

  • 左エンジンが止まった時
    →右のラダーペダルを踏み込む(左回転を止めるため)

  • 右エンジンが止まった時
    →左のラダーペダルを踏み込む(右回転を止めるため)

ペダルを踏み間違えると、回転を強めてしまい非常に危険です。

そのため、パイロットは瞬時に正しく踏み分ける判断力を徹底的に訓練されています。

エンジン故障が「最も危険なタイミング」とは?

さて、力学的にいつエンジンが止まるのが1番危険かと言うと離陸する時です。

主な理由は以下の3つです。

  1. エンジン出力が最大
    片方が止まった時の左右の推力差が最も大きく、回転しようとする力も最大になります。

  2. スピードが遅い(低速度)
    舵(ラダー)はスピードが出ているほどよく効きます。低速時は効きが弱いため、ペダルをかなり深く踏み込む必要があります。

  3. 高度が低い(低高度)
    高度に余裕がないため、姿勢を立て直すための時間的猶予が一瞬しかありません。

パイロットは離陸時にエンジンが故障する訓練をかなりの量積んでおり、試験時にも必ずやらなければいけない項目となっています。(ちなみにその科目は”Engine failure after V1(離陸決心速度通過後のエンジン停止)”と言います)

着陸時(One Engine Landing)の難しさ

着陸時は離陸時ほどエンジン出力を上げていないため、推力差自体は小さくなります。

しかし、着陸時はスピード調整のためにパワー(推力)を細かく出したり引いたりします。

  • パワーを出す
    →故障したエンジン(Dead Engine)側へ向こうとする

  • パワーを絞る
    →生きているエンジン(Live Engine)側へ向こうとする

パワーを変えるたびに左右に振られようとするため、「手でのエンジン出力調整」と「足でのラダー操作」の絶妙な連携(コーディネーション)が求められます。

できるだけパワーを一定に保ち、余計な動きを出さないことがコツです。

着陸時の力学

V1後のエンジン故障時の操縦テクニック・コツ4選

さて、最後にV1後にENG Failした場合の操作のコツを書きたいと思います。

僕は主に4つのチェックポイントを持っています。

①Rudderを踏み過ぎない

理想はRudderを使ってTrackをRWYと一致させることですが、それは極めて難しいと思っています。

RudderでYawingを止めますが、踏み過ぎてしまうとエルロンを風下の方に取らなくてはならなくなるため非常に難しくなります。

Rudderが足りなすぎるのもいけませんが、どちらかと言うと少し足りないほうが操作は簡単になります。

その足りないRudder分エルロンをLive ENG側にとって飛行するのが最も簡単です。

②Rotationは通常よりもゆっくり

片方のエンジンの推力を失っているので通常のようにRotationするとSpeedがつかず失速の危険があります。

通常よりもゆっくりとRotationするように心がけています。

③上昇姿勢が落ち着くまでRudderをバタバタ動かさない

①でも説明しましたが、Rudderを一回で適量を踏むのは難しいです。

踏んだ後にRudderが適量ではないことが分かってもRotationが終わって上昇姿勢が落ち着くまではRudderを動かさないように注意が必要です。

Rudderの量でエルロンの量も変わってきます。それがRotationという繊細な操作の時に変わるのは好ましくありません。

Rudderとエルロンのコーディネーションが取れなくなって非常に危険です。

④Bank入れないようにエルロン操作

これは通常時と同じですが、飛行機が傾かないようにRotationします。

傾かないようにエルロンでコントロールします。

ここでの難しいポイントはエルロンがニュートラルの位置で水平を維持できるとは限らない点です。

簡単そうに見えて横風があると難しいです。

以上これらのポイントを念頭に置いています。

(※上記テクニックは個人の知見・経験に基づくものです)

まとめ

飛行機は万が一片方のエンジンが止まっても、「垂直尾翼(ラダー)による力学的な補正」と「パイロットの技術・訓練」によって安全に目的地まで飛行・着陸できるよう設計されています。

航空力学の基本を知っておくと、飛行機の安全性の高さをより深く理解していただけるのではないかと思います!

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