ここだけのパイロットの話

飛行機の重量とバランスは超大事【Weight&Balance】

投稿日:01/07/2020 更新日:


Jです。

 

今回ですけども、専門的な話で飛行機の重量とバランスについてです。

航空法に規定されている専門用語は「離陸重量・着陸重量・重心位置および重量分布」で、英語で言うと”Weight and balance”です。

パイロットにはWeight&Balanceを略して「ウエバラ」という人もいます。なんでも略せばいいというものでもありませんが・・・。

「離陸重量・着陸重量・重心位置および重量分布」は機長が出発前に確認しなければいけない項目の1つです。

 

さて、飛行機が飛ぶには重量バランスの2つが重要です。

飛行機は機種ごとに最大の離陸重量(上限)が決まっているため、無制限に人や物を乗せていいわけではありません。人や貨物が多いときは調整して所定の重量内におさめる必要があります。

また、飛行機のバランスとは重心位置のことで、重心が決められた所定の範囲内に収まっていないと飛行機は離陸してはいけないことになっています。どのくらいの範囲に入れる必要があるかは後ほど図に書いておきます。

 

8つもの重量制限を全て守る

飛行機の離陸に関して満たさなければならない重量制限がたくさんあります。

以下の通りでざっと8通りあります。

 

単に構造上の最大重量(Structual Limit)

この制限は飛行機の強度による制限です。

これ以上の重さで運航したらダメですよという重量です。1番イメージがつきやすいかと思います。

 

離陸滑走路の長さによる制限重量(Field Limit)

この制限は飛行機自体ではなく、滑走路の長さという外的な要因を考えた制限です。
飛行機は重ければ重いほど必要滑走路長は長くなります。重いほど加速が悪く、加速に距離が必要だからです。
滑走路が短い場合、飛行機の重量もおさえなくてはいけません。

 

離陸後の上昇率の制限による離陸重量(Climb Limit)

離陸後にしっかりと上昇できるような重量で離陸する必要があるためこの制限があります。どれくらいの上昇率がないといけないかは法律で決められています。

 

離陸経路上の障害物をクリアするための制限重量(Obstacle Limit)

離陸経路に山などの障害物がある時は、離陸後にその障害物を超えられるような重量で離陸しなければなりません。そのための制限です。
この制限は障害物がないときには設定されません。

 

巡航中に1つのエンジンが故障して高度が下がっても航路上の全障害物に衝突しないための制限重量(Enroute Limit)

一部例外がありますが、飛行機のエンジンは2つあります。1つのエンジンが故障すると飛行機は一気に性能が悪化し、維持可能な高度は下がります。エンジンが1つ壊れた時点で維持可能な下の高度に変更するわけですが、その際山岳エリアを飛んでいた時でも障害物に当たらないような重量になっています。つまり、この制限を満たしていれば、目的地までの巡航においてどの位置で1つのエンジンが故障しても経路上の障害物を超えられるように設定されています。

 

着陸時の制限重量(Landing Limit)

飛行機は最大着陸重量も決められています。目的地において最大着陸重量以下になるように離陸重量を制限します。
具体的には最大着陸重量に消費燃料の重量を足した値となります。

 

翼の付け根にかかる荷重による制限重量(Zero Fuel Limit)

揚力(上向きの力)は翼に発生しており飛行機の胴体には揚力は発生していません。その状態で最も負荷がかかる場所は翼の付け根です。
燃料は翼の中に入っていますが、フライトが進んで翼の中の燃料が消費されてくると、翼自体の重量が軽くなり、翼が上にそり上がってきます。この制限はその時の翼の付け根にかかる重量を制限します。

 

タイヤの強度による制限重量(Tire energy Limit)

車でイメージするとわかりやすいのですが、重すぎるとタイヤが耐えられません。そのタイヤやブレーキの強度を考えた制限重量です。

 

以上のように8つの重量を考えて、全てを満たさないといけません。従って、その中の最も厳しい(小さい)重量がその便の最大離陸重量になります。

 

飛行機のバランスについて

重量と並んでもう1つ重要なのは飛行機のバランスです。

バランスというのは飛行機の重心位置のことです。縦方向(前後)のみのバランスを考え、横方向(左右)のバランスは考えません。

 

重心位置は

旅客の着席位置

貨物の搭載位置および重量

燃料搭載量

この3つの要素で決まります。

 

まず、①の旅客の座席ですがこれは基本的にお客様が自分で決めるため、どうしようもありません。大型機になればなるほど、早く降機できる前の席に集中する傾向にあります。

②の貨物の搭載位置、重量ですが、旅客の重量と比べ貨物の重量はかなり重いため貨物の重量と搭載位置で重心位置はほぼ決まってしまいます。

最後の③の燃料搭載量ですが、重心位置は翼の付近で動くため、翼に燃料を積んでもほとんど重心位置は動きません。長距離国際線のように大量に燃料を搭載する場合には無視できなくなってきます。

 

ちなみにこの重心位置の範囲ですが下の図のようにかなり狭い範囲に収めなければなりません。

この重心位置の範囲が狭すぎて一見誤差かと思う人もいるかと思いますが、実は誤差ではなく大きな違いがあります。

 

重心が前にあると、飛行機は安定する(静安定)というメリットがある反面、燃費や操縦性が悪くなるというデメリットがあります。

逆に重心が後ろにあると燃費や操縦性が良い(反応が良い)メリットがありますが、安定性が悪くなります。

 

今、操縦性についてに少し触れましたが、離陸時にその違いが重要になります。

重心が前にある時は操縦かんが重く、離陸時に通常時よりも操縦かんを大きい力で引かなければなりません。

逆に、重心が後ろの時はいつもの調子で操縦かんを引くと飛行機がピッチアップし過ぎて、下手をすればおしりを地面に擦ってしまいます。

毎便ごとに重心が違うと操縦する方は大変です。そこで、離陸する前にこの重心位置に応じた「トリム」をセットするという手順があります。トリムを取るとは水平尾翼の角度を重心位置によって調整することです。コックピットから簡単にできます。

トリムをセットすると、重心位置にかかわらず操縦かんの重さが同じになります。これで、毎回同じように離陸操作をすることができるのです。

従って、重心は超重要です。

 

パイロットからのちょっとしたお願い

そういうわけなので、旅行に行くときに後ろの方で座席を取っておいて、飛行機に乗ってから前の席が空いていたとしても勝手にその空いた席に座らないでくださいね(笑)

前もって決められた座席に着席しましょう。

計算した重心と実際の重心が違ってしまいます。(特に小型機の場合シビア)

よろしくお願いします。


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